
NFTはただのブームか?
さらに、いくつかのセンセーショナルな高額取引に注目が集まり、既存産業における大手メディアまでもが報じるようになりました。
これにより、既存の暗号資産ユーザーの垣根を超え、BTCの相場の動きを必ずしも気にしていない新たな読者の流入が増えたのは我々にとって大変喜ばしいことです。
一方で、そのような読者の皆様が、実態がない、パソコン上でただのデータに資産価値がつきはじめているという事実を、どのように受け止めているか。
もし、単なる流行し物のバブルをウォッチしておこうという程度の認識でいるとしたら、その裏に潜む本質を見逃しているかもしれません。
















世界は無形資産に向かっている
無形資産とは、物的な実体の存在しない資産のことです。
たとえば特許やブランド商標権や著作権、データ、ソフトウェアなどといった知的財産。
また、技術やノウハウを持つ従業員の人的資産、企業文化や製品管理プロセスなどといったインフラ資産なども含みます。
近年の新型コロナウィルスによる強制的なデジタルシフトと、世界的な金融政策による行き場のないマネーは、このような無形資産をもつ企業やアセットへの資金流入を後押ししました。
ビットコインを中心とした暗号資産が誕生から12年、飛躍的に成長してきたこともそのひとつの現象といえるでしょう。

NFTは無形資産のイノベーション
NFTマーケットプレイスでは、たとえば、一定の商業利用が許可されたキャラクターのライセンスや、有名シェフのレシピ動画、通信社が保有する歴史的瞬間の映像の一部が、NFTとして売り出されています。これらの現象と、この世界的な無形資産へのお金の動きは同じ線をたどっているのではないでしょうか。
なぜならNFTは、まさに知的財産などのさまざまな無形資産をデジタル上で特定し、希少性を与え、誰にでもアクセス可能にし、金融価値をつけて流動化させることができるからです。これまで眠っていた資産を価値のあるものとして流通させることができるのです。
その意味で、NFTは単なるバブルではなく、大きな流れの中の時代の要請として、今後ひとつの経済インフラとして伸びていくのではないかと期待しています。
かねてからブロックチェーンは、暗号資産が最初のアプリケーションであったことから記入のイノベーションであるといわれますが、中でもNFTは無形資産のイノベーションであるといえます。

新しい価値と文化の創出
このアート作品のNFTを保有していると、彼らが独自で発行する暗号資産NCTが1日10枚自動で配布されます。
これを半年ほど貯めるとNFT保有者には、作品の命名権が与えられます。
NFTアートを所有することで暗号資産の利息をコツコツ貯めることもできるし、半年分のNCTを購入して命名しすぐに作品を売却し利益を得ることもできます。
このように、NFTの価値を考えるには、デジタルネイティブなユーザーに対して、どのような特典や体験が価値となるのか、アナログな常識を取っ払って考えてみる必要があります。
なぜなら私たちは、それが新しい文化となっていくいままさに変革期にいるからです。

金融包摂の手段としてのNFT
その後世界中の金融当局からの強い批判を受け、計画を縮小することになってしまいましたが、その構想の中心にあった金融包摂という魅力的なテーマを、いまではNFTが別の形で実現しています。
ベトナムのSky Mavis開発したAxie Infinityは、イーサリアムブロックチェーンを使った分散型アプリです。
プレイヤーはAxieと呼ばれるかわいいデジタルの生き物を繁殖、飼育し、戦わせ、NFT化されたAxieを取引し、ゲーム内通貨を換金することで収入を得るというもので、コロナ渦のフィリピン経済を支えています。
成人のわずか23%しか銀行口座をもっていないフィリピンでは、スマートフォンやPCを通したこのブロックチェーンゲームが、どんな政策よりも金融包摂の機能を果たしているという事実は特筆すべき事象でしょう。
とはいえ、日本では多くの人が銀行口座をもっていて、フィリピンのような課題を身近に感じることは難しいでしょう。ですがNFTは、日本特有の意味での金融包摂を果たすものになるのではないかと思っています。
日本では、貯蓄から投資へというスローガンが掲げられるようになってしばらく経ちますが、その流れは遅く、日本人の家計金融資産は依然として投資よりも現金や預金が主です。デジタル資産でおもしろいのは金融的な価値と、そのトークン自体が用途をもつユーティリティ要素が、一緒に設計できることです。
たとえば、前述のAxie Infinityが発行しているAXSは、暗号資産でありながら、ゲーム内通貨という用途ももっています。
NFTは、より感情的で、個々人の趣味を反映するものとして、それを補足するような機能をはたすかもしれません。
たとえば、最初に紹介したHashmasksなどは、はじめて証券口座を開設して難しいリターン予測や投資目論見書を読み解いて金融商品を買うよりも気に入ったデジタルアートを購入しリターンを得るという体験が、金融リテラシーの低い日本人が金融取引に関心を寄せるきっかけになるかもしれません。
多様化した価値がより多くの人々のモチベーションをとらえ、金融取引へと導くことで、企業やプロジェクトとの中長期的な関係をつくるという流れがあるとすると、金融がメディア的な側面をもつことになり、これが日本経済に与える金融包摂的な影響は大変興味深いところです。

NFT:高まる日本での期待
日本経済では、知財を中心とした無形資産が競争力の源泉として、より重要な経営資源となったいまでも、いまだに実体のモノへの投資が重要視されていることで世界のイノベーションに後れをとっています。
一方、日本にはジャパンコンテンツとしてすでに世界で認知されている素晴らしい知財や伝統的な技術が多数あるため、NFTを活用していける材料にあふれていると思います。
特に、原則金融規制の外にあるからこそ、グローバルでも後れをとらずに業界でルールや様々な事例をつくりながら発展させていけるチャンスが大きいと期待しています。

NFT:デジタル資産市場づくりの先頭バッターに日本はなれるか
メタバースが現実世界に寄ってきている
日本で暗号資産交換業者に口座を持つ人は述べ480万人います。こうした暗号資産に興味がある人の中でもNFTと聞いてピンとくる人はまだ多くないでしょう。実際にNFTを新聞記事で取り上げる過程でいろいろ表現に悩みました。
鑑定書と所有証明書がついたデジタル資産、仮想通貨の兄弟分となるべくわかりやすい表現を考えてみましたが、本当に伝わっているかどうかいまだに不安です。頭をひねっていると、アメリカのイノベーションの担い手がイメージしやすいヒントを与えてくれました。
人々が使いたいと思うものを開発するだけでは十分ではない。経済的機会、社会的にみんなが参加できるという包括的なものでなければいけない。
超越したを意味するメタと世界を意味するユニバースを組み合わせた造語で、インターネット上に構築される仮想の3次元空間を指します。
SF作家のニール・スティーブンスン氏が1992年に小説スノウ・クラッシュで使ったのが最初といわれています。
この世界観をわかりやすいかたちで2018年に世に示したのがスティーブン・スピルバーグ監督の映画レディプレイヤー1です。
主人公はネットワークでつながれた広大な仮想現実世界を舞台に活躍します。
サンリオのキャラクターであるハローキティやガンダムなど日本でもおなじみのキャラクターが登場し、話題になったので記憶にある方もいるでしょう。
それから3年。ゲーム業界で長らく語られてきたそのメタバースが現実世界に一気に寄って来ています。
その触媒になっているのが、NFTです。
仮想空間の新たな経済インフラというべきものになっているのです。実際にNFTゲーム「Axie Infinity」はブラジルやフィリピンなど新興国で人気のゲームとなっています。
ザッカーバーグ氏がいう包括性とは貧富の差によらず、誰でもアクセスできる世界観のことを指しています。
大手取引サイトOpenSeaによれば、NFTの取引高は2021年8月に30億ドルと1月比で570倍に膨らんでいます。
人気ゲームNBA Top Shotを展開するカナダのDapper Labsは2021年3月、3億ドル強の資金を調達したほか、日本ではGMOインターネットやLINE、メルカリなど大手がNFT事業への参入を相次いで表明しました。
ZOZO前社長の前澤友作氏がNFT特化のブロックチェーンを開発するスタートアップ企業であるHashPortの第三者割当増資4.8億円を引き受けるなど今後の競争は激しくなりそうです。

NFTは一過性のブームなのか
人気ユーチューバーの中にも自分のコンテンツをNFTにして販売する人も出てきています。もちろんその人のファンで、所有することが目的の場合もありますが、その多くは転売目的の投機マネーです。
新型コロナウィルス渦が起こした世界のカネ余りがビットコインをはじめとする暗号資産の時価総額を膨脹させ、そこからあふれ出たマネーがNFT市場に流れ込んでいます。
ビットコインの価格が急落すれば、マネーの逆回転がおきかねません。
たとえば、NFTの鑑定・所有所を偽造できなくてもデータそのものはコピーできます。実際にインターネット上にあったデジタルアートを勝手にコピーしてNFTを発行する事例も出てきています。
これを旧来の著作権で保護するべきなのか、新しい法律を制定すべきなのか早急に議論が必要になるでしょう。
さらにNFT自体が換金性をもつことから、従来のゲームガチャの形態では賭博法に抵触する可能性もあります。
ただ、どうしても金の匂いがちらつき、ここに一山あてたい人たちが群がります。
2017年から18年に世界で起きた暗号資産による資金調達であるイニシャル・コイン・オファリングブームは詐欺が多く紛れ込み、本当に資金を調達したいエンジニアや企業を駆逐してしまいました。その時の教訓は生きるでしょうか。
暗号資産イーサリアム創始者のヴィタリック・ブテリン氏も、裕福な著名人がさらにお金を稼ぐために使うのではなく、より社会的価値の高い方向性に作用することを期待すると話しています。
大事なのはNFTは資産管理の仕組みであるということです。
NFT自体が価値をもつと錯覚する人々が増殖しすぎると、NFTビジネスは短命に終わってしまうかもしれません。

香港のユニコーン企業アニモか・ブランス会長が考えるNFTの可能性
2021年、世界的な盛り上がりを見せるNFT
現在のNFTビジネスの状況は、20年ほど前のいわゆるITバブルのころに似ています。1990年代末から2000年代はじめ、世界中でIT関連企業の株価が高騰し、活発にITベンチャーへの投資が行われました。その中心地はいうまでもなくアメリカのシリコンバレーであり、盛んに新たなビジネスモデルの検証が行われていました。
当日、ITといいさえすれば世界中から資金が集まっていたのと同じように、いまNFTビジネスに資金が集まっているし、様々なプロジェクトが行われています。
ただし、実際の市場規模はまだまだ小さいです。
つまり、現在のNFTビジネスのプレイヤーは、NFTマーケットの飛躍的な拡大にチャレンジしているアーリーアダプターといえるでしょう。
わずか2~3年でITバブルは弾け、多くのベンチャー企業が消えていきました。
その危機を乗り終え、生き残ったアーリーアダプターの代表がGoogleやAmazonです。
要するにITバブルは弾けても、その後ITビジネス自体は指数関数的に急成長したというわけです。
こうした現象は、10年ほど前のモバイルゲームのブームでも見られました。
インターネットやモバイルゲームの世界が爆発的に拡張したように、NFTの世界はこれからも確実に拡張していきます。